世間知らずの田舎者、イギリス初上陸

自分がイギリスに初めて到着した 15 年前のその日を思い出し、書いてみることにしました。

最近は日本語を改善するように努めています。その練習にもなるし、15 は数字的に区切りがいいので。

ヒースロー空港にて

ヒースロー空港に到着したのは昼過ぎでした。1 ポンドを買うのに確か 220 円以上も必要だった 15 年前の 4 月のことです。

黒い厚手のカーハートのジャケットを羽織り、緑色のバックパックとスーツケースを連れてやってきました。

飛行機の中にいるときから入国審査のことが心配でした。どのような質問をされるか念入りに調べ、その答えも用意し、必要な書類もすべてそろえておきました。それでも、もし通過できなかったらどうしよう、と緊張気味でした。

薄暗い入国審査の列に並ぶと、その緊張も本格的なものに。前の人たちを見ていると、すんなり通っていく人や、それとは対照的に、時間がかかっている人もいます。自分は大丈夫か、不安が募ります。

いよいよ自分の番。

なんてことはない。準備の甲斐もあり、質問も予想通りで、あっけないくらいすんなりと第一ハードルを越えました。

入国審査後

ここでもう 1 つの難関が待ち受けていました。それは、これから所属する大学のインターナショナルオフィスに電話をかけ、自分がどこに住むのかを聞きだす、ということでした。

たいていの学生は、現地到着前に自分の宿泊先くらいは知っているはずです。僕の場合、大学への応募が締め切りに間に合わず手続きが遅れ、その結果、当日まで宿泊先がどこか知りませんでした。

人生初となる英語だけの電話です。公衆電話の使い方も日本とは勝手が違います。先ほどの入国審査よりこっちの方が桁違いにドキドキしました。

公衆電話を見つけて、いざ電話。聞き慣れないトーンの後に女性の声。激しく緊張していたため、どのような会話を交わしたのか全く覚えていません。相手の表情が見えない電話でのやり取りは、情報が掴みづらく得意ではありません。でもなんとか自分が行くべき場所を聞き出します。

「大学付属のスポーツセンターに行くこと」、それが僕の次の目的となりました。

受話器を戻した後は随分と気が楽になりました。俺の英語も結構通用するんじゃないの?そんな調子のいい勢いに乗り、いよいよ空港の外へ。

バス

出てきたところは、セントラルバスステーション。

4 月なのに寒い。日本の春とは異なり、厚手のジャケットを着ているのに寒い。

バスのチケットを買い、乗る時に行先のバス停名が書いてある紙を運転手さんに見せて、ここについたら必ず知らせて欲しい、と口を酸っぱくして伝えました。心配性なのか、それでも乗り過ごしてしまうのが怖かったので、運転手さんのちょうど真後ろにある席を確保して、いざ出発!

視界に入ってくるもの

空港を出てから 1 時間ぐらいが経過し、外の見慣れない景色を見ていて思ったことは、まさに:

  1. 緑がやたらと多い
  2. そして、羊やら牛やら馬やらが、のんびりとそこで草を食べている

でした。

じゃあ、どんな風景を予想していたの?と質問されたとしても、それに答えることはできませんが、こんなにゆったりとした世界はまったく予想外でした。しかも、高速道路の両脇に広がっているなんて。

そんな景色も徐々に変わり、やっと街らしくなってきました。長旅でもちろん疲れていましたが、視界に入ってくるなるべく多くをこの目に焼き付けるよう心がけたので、ウトウト寝てしまうようなことはありませんでした。

目的地に到着!

バスを降り、目的地までちゃんと運んでくれた親切な運転手さんにありがとうを言いました。学生がたくさんいるはずの街なのに、降りたところはとても静かなところでした。ここでもまた予想外(後々知ったことですが、ちょうどイースターの休暇時期で、学生の多くはいませんでした)。

いざスポーツセンターへ

スーツケースをゴロゴロと引き、早速道に迷いました。勇気を出し、近くを歩いている人にスポーツセンターはどこか尋ねました。道に迷うことは想定済みだったので、こればかりはイメージトレーニングを重ねてきたつもりです。自分の中では結構完璧だと思われる発音で、丁寧な言いまわしで尋ねました。

戻ってきた返事はテープで学んだ英語とは異なり、ほとんど聞き取ることができません。しょうがないので、分かったふりをしてその場を切り抜ける羽目に。

やっぱり、発音の仕方とか、話す速度とか、耳が慣れるまで聞き取ることができません。

指さされた方向に少し歩くと、大学の名前がでかでかと看板に書いてあるではないですか。降りたバス停から大学の正門まで、実は目と鼻の先だったのです。

なぜ、自分が道に迷ったのか不明です。でも迷ってしまったのだから仕方がない。見慣れない土地では、ましてや初めての異国の地では、こんなありえないことも普通に起きてしまうのです。

大学の敷地内にやっと入り、細い道をたどった後に付属のスポーツセンターをなんとか探し当てます。そこに入り、受付の人に僕はこれこれこういうものです、と伝えました。そこで少し待っていると、学生寮の管理人さんが現れ、近くにある学生寮へと連れて行ってくれました。

イギリス初の居場所

案内された学生寮は古びたレンガ造りで、3 階建てでした。その建物の周りにも、似たような建物がいくつか建っています。入口を入って左には散らかったキッチン、そして右に 1 部屋ありました。階段を上るとそこに 4 部屋。また階段を上って、同じく 4部屋、という構造でした。僕の部屋は、その最上階にありました。他の学生の気配は全くありません。

部屋はお世辞にも広いとは言えません。木製のシングルベッドには、バネがもう弱くなって、湿ったせんべいみたいになったマットレスが乗っていました。布団はついていません。

窓際には、部屋の大きさの割には堂々としすぎる勉強机がありました。小さな本棚が壁に 1 つ、衣類を収納するための家具もありました。少し埃っぽく、空っぽで味気のない部屋でしたが、居場所を確保することができたのでこれで一安心です。

「部屋を出るときは必ずカギを持って出るように」、と言い管理人さんは寮を去りました。

ドアは閉めた時に自動的にカギがかかる仕組みになっています。初日から部屋に入れない、なんてことになると洒落になりません。同じ階にある共同トイレへ行くときなどはそれを肝に銘じました。

新しい常識

そのトイレで気が付きました。便座とその蓋の部分の色が白ではなく、黒であることに。汚れて黒というのではありません。もとから黒なのです。トイレは白とは限らない。そんな新しい常識を新天地で学びました。

そんな便座に座ってみると、それがやや高いってことにも驚きました。小の方も今まで慣れていた日本のとは違い、位置が高めに設定されているのです。ベルトの端が便器に当たったりするので、なんか衛生的に嫌な感じです。こんなどうでもいいことにも普通に驚きを感じてしまうなんて、イギリスにまで来た甲斐があるってものです。

バスタイム

かれこれ 15 時間ぐらいシャワーを浴びていません。気持ち悪いので体を洗うことに。共同のお風呂はバスタブにシャワーが付いているものでした。水は青、お湯は赤。これはイギリスでも日本でも同じなようです。水とお湯のレバーは分かれており、その使い方はひねるだけ。でも、お湯をシャワーから出す方法がどうしても分からない。どうやっても、バスタブの方にお湯が勢いよく出てしまうのです。

どうやったらシャワーからお湯が出ます?そう質問できる相手が寮にはいません。

困った挙句、ある程度バスタブにお湯をためてから、そこに頭を突っ込んで、髪を洗いました。とても間抜けな格好です。

上半身裸で濡れた髪から垂れてくる水が冷たいです。汚れたお湯を一旦流して捨てて、またため終わるまで時間がかかります。なので、シャンプーで泡だらけになったお湯につかり、きれいになったつもりで部屋に戻りました。

そろそろ夕飯時

時間はもう夕方。

話す人もいないし、やることといえば、スーツケースの中身を出して整理し始めることぐらい。開いたスーツケースを見ていると、ホームシックになりそうでした。

今ある食べ物は、お母さんが持っていきなさい、と言って入れたお菓子類。遠足じゃないんだから!そんなことを言いながら入れたチョコレートを食べながら、お母さんの言うことはやっぱり正しいなぁとしみじみ感じました。例えば、今日は傘を持っていきなさい、と言われ持っていくと雨がやっぱり降ったりして。この時もお母さんに救われました。そんなことを考えていると、次第に日本が本当に恋しくなります。

地元を離れ、下宿生活をしながら通った高校。大学時代は短期間でしたが東京に住みました。親元を離れた生活に慣れているはずなのに、国境を超え、こんなに遠くにやってきてしまうと事情が違ってくるものです。同じ国内だったら帰りたいときに帰り、時差もないから電話もしやすいのですが、これからはそうはいきません。

静かすぎ

部屋にはテレビもなければ、ラジオもなし。インターネット?そんなの完備してあるわけがありません。静かすぎて音が恋しかったので、IELTS という英語検定の付録 CD を日本から持ってきたプレーヤーで聴きました。ひょっとして俺はここにひとりで住むの?イースター休暇中であることを全く知らない僕は、そう思いました。

もう寝よう

春と言えども夜はかなり冷え込みました。でもこの部屋には布団がありません。寒さを何とかしのぐため、火事があったときは問題なく出られるような普通の格好になり、カーハートのジャケットを上に掛け寝ました。

朝早く、鳥の鳴き声で起きました。学生寮の周りには大きな木々がたくさんあり、朝になると鳥の大合唱が始まるのです。寮の外から、その鳥の鳴き声とともに、人の話す声も聴こえてきました。英語の会話です。その瞬間、「あ、イギリスに来たんだ」と再確認し、その後は「随分と遠いところまで来てしまったなぁ」、と後悔にも少し似たような気持ちになりました。

今だから思うこと

もし、何らかの理由でスポーツセンターに指定時間内に到着しなかったら、その日はどこで寝泊まりしたんだろう?そんな想像をすると少し怖くなります。

 
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